低線量率放射線が生体に与える影響の
発現機構に関する調査研究

低線量放射線に対する生理応答影響実験調査

生物が生きていくためには体内を一定の状態に保つ(恒常性)必要があります。この恒常性を維持・調節するために、例えば造血機能免疫機能といった多種多様な調節機能が働いています。

これまでの低線量率放射線(ただし集積線量は中線量から高線量)の生物影響に関する調査の知見から、造血系や免疫系、生理活性物質であるホルモンを媒介として体内の調節を行う内分泌系に影響があることが分かってきました。これらの放射線の影響が最終的に生物個体の寿命短縮やがん発生につながることから、放射線による調節機能の変化について調査を行っています。

造血機能に関する調査

造血機能は生物個体の恒常性維持に重要な役割を果たすとともに放射線に対して感受性が高いことが知られており、その一例として放射線による血液のがん(白血病)の発生が知られています。これまでの調査で、低線量率放射線の照射による白血病の発生機構は高線量率放射線の場合とは異なること、造血幹細胞の増殖や分化様式への影響に違いがあることが示唆されました。この低線量率放射線による造血幹細胞の増殖や分化様式の変化は、他の細胞が分泌した液性因子(ホルモンやサイトカインなど)を介した造血幹細胞周辺環境の変化に起因していることが推測されます。

そこで、低線量率放射線照射マウスを使い、造血幹細胞周辺環境の細胞の解析(細胞死や細胞老化)や液性因子の変化などの解析を行います。また培養した造血幹細胞に低線量率放射線照射を行い液性因子の投与実験を行います。 図3.2.2

免疫機能に関する調査

免疫機能の一つにがん化した細胞を排除する仕組みがあります。低線量率放射線を長期連続照射したマウスにがん細胞を移植した実験では、照射によりその免疫系の仕組みが抑制され、移植したがん細胞の増殖を許してしまう現象が確認されています。しかし一方で、飼育環境を変化させることにより免疫機能が増強され、移植したがん細胞の生着率が低下することを示唆する実験結果も得られています。

そこで本調査では、低線量率放射線の長期連続照射が与える免疫系への悪影響に対する飼育環境変化による低減作用を、移植したがん細胞の生着・転移率、免疫細胞応答や移植したがん細胞に対する応答を指標として調査を行います。 図3.2.3

内分泌系に関する調査

生理活性物質であるホルモンを介した内分泌系は恒常性を維持・調節するために重要な役割を果たしており、その変化は血流を介して生体システムに様々な影響を与えると考えられています。

これまでの調査で、低線量率放射線連続照射したメスマウスでは、体内で重要なホルモン産生器官である卵巣において、卵母細胞の減少と組織の萎縮が促進されることによりホルモンが大きく減少し、非照射マウスと比較してより若い週齢で体内のホルモンバランスが崩れることが明らかとなりました。またその影響は肺や肝臓のがんの発生を促進した可能性を示唆する実験結果が得られています。そこで、低線量率放射線による内分泌系の変化とがん発生、寿命との関連について調査を行います。 図3.2.4