低線量率放射線が生体に与える影響の
発現機構に関する調査研究

低線量率放射線に対する分子細胞応答影響実験調査

過去に行った「寿命試験」から、低線量率放射線(1日あたり20ミリグレイ)を400日間連続照射したマウスでは約100日の寿命短縮がみられ、その主な原因は致死性のがんによる早期死亡であることが確認されています。がんは、基本的に生物の体を構成する正常細胞ががん化することにより発生するものです。従って、低線量率放射線が照射された個々の細胞では何らかの反応(細胞応答)が起こっていると考えられます。しかし、高線量率放射線に対する細胞応答と比較すると、低線量率放射線による応答は弱いことが多く、生物個体の性別や加齢、遺伝的背景といった条件に左右されやすいことがこれまでの調査結果から示唆されています。

そこで、このような条件に留意しつつ、低線量率放射線が個々の細胞に対して引き起こす細胞応答を明らかにすること、また、細胞応答のひとつとして細胞のゲノム・DNAに変化が起こることが重要と考えられ、それらを明らかにすることを目的に調査を行っています。

低線量率放射線に対する分子細胞応答影響実験調査

放射線を含む何らかのストレスを受けた細胞は様々な応答を示しますが、低線量率放射線による影響は微弱であり、どのような細胞応答が起こっているかについては、ほとんど分かっていません。

そこで鋭敏な生化学的検出法を用いて、低線量率放射線により起こる細胞応答に起因する応答分子を明らかにするため調査を行います。また、加齢マーカーとされる分子や加齢による臓器の機能低下の指標となりうるマーカー分子の量を、照射したマウスについて経時的に評価することで、寿命試験でみられた寿命短縮の機構解明を目指しています。

更に、高線量率放射線照射時に見られる応答分子に関係のある遺伝子を欠損させたマウスや細胞を用いて、低線量率放射線照射の場合の細胞応答を同じ遺伝子が支配するのか検討を行います。 図3.3.1

線量率の違いによるゲノムへの影響解析

放射線の細胞への影響のうち、ゲノムや遺伝子などの突然変異、染色体異常に関しては線量率効果があることが知られています。例えば低線量率放射線と高線量率放射線で同じ線量を照射した場合、変異や異常頻度を比較すると低線量率の方が影響が小さくなることを線量率効果といいます。

これまでマウス脾臓細胞における放射線による転座型染色体異常の誘発について調査した結果、線量率効果が確認されています。しかし、線量率効果が起こる境界となる線量率については未だに分かっていません。そこで、中線量率を含めた様々な線量率でのマウスへの照射を行い、その境界を明らかにするために調査を行います。 図3.3.2