排出放射性物質影響調査

調査の紹介

低線量率放射線による生物影響に関する調査

 

再処理工場から排出される放射性物質に起因する周辺住民の放射線被ばくは、ごくわずかずつ(低線量率)のものですが、一方で、非常に長期間にわたる可能性があります。

放射線被ばくの健康影響に関する知見の多くは、原爆被ばく者を対象とした調査によるもの、すなわち、ごく短い時間にかなり多くの放射線を受けた場合(高線量率放射線の急性被ばく)の影響に関するものであり、低線量率放射線による長期被ばくの影響に関する知見は世界的にも限られているのが現状です。

そこで、低線量率放射線の長期被ばくによる生体への影響を、主に実験動物(マウス)を用いて明らかにする調査「低線量率放射線による生物影響に関する調査」を実施しています。この調査は大きく、「実証調査」と「機序調査」のふたつに分かれています。

 

低線量率放射線を照射できる照射室と実験用マウス

低線量率放射線による継世代影響に関する調査研究

低線量率放射線被ばく影響の実証調査

低線量率放射線を長期にわたり被ばくした場合の影響のデータが、人の場合でも実験動物の場合でも少ないことから、データを得る必要があります。そこで、実験動物に低線量率の放射線を長期にわたり照射し、その影響の種類と大きさを調べる実験を行います。現在の放射線被ばく影響の評価は主に高線量率放射線急性被ばく(原爆被ばく)のデータが用いられていることから、高線量率放射線急性被ばくと低線量率放射線長期被ばくの影響の種類や大きさの違いを動物実験によって調べる必要もあります。このような調査を、「実証調査」と呼んでいます。

最初の「実証調査」として、おとなのマウスに低線量率放射線を長期間照射し、寿命や疾病発生への影響を調べる「寿命試験」を1990年代に開始しました。その後、胎児期の被ばくの影響を調べる「母体内被ばく影響調査」(解説記事)や、オスマウスの被ばくによる子孫への影響を調べる「継世代影響調査」 (解説記事)を実施してきました。これらの調査により、年間20ミリシーベルトに相当する程度の放射線を照射したマウス(例えば、事故時の避難指示の目安となる値、職業被ばくの線量限度5年間で100ミリシーベルト)では明確な影響を検出することが難しいという結果が得られています。

しかし、これらの実証調査だけでは不十分であり、以下のような2つの解析項目について調査を行っています。

低線量率放射線被ばく影響の実証調査
幼若期被ばく影響の解析

放射線被ばくの影響は、被ばく線量が同じであっても、被ばくする個体の条件(遺伝的背景、年齢、性別、生活環境など)によって大きく異なると考えられています。特に被ばくしたときの年齢は被ばく影響を大きく左右する重要な要因と考えられており、また子どもが低線量率放射線を長期間にわたって受けた場合の影響については、社会的関心は非常に高いものの、その知見は限られています。そこで、以前に実施した「おとなの被ばく」および「胎児期の被ばく」の調査に引き続き、「子どもの時期の被ばく」の影響を明らかにするための調査を実施しています。

幼若期被ばく影響の解析

放射線被ばくの影響は、被ばく個体がおかれた生活環境によっても変わる(修飾される)と考えられていることから、マウスの飼育環境や飲食物の成分が、低線量率放射線被ばくの影響をどのように修飾しうるのかについて、調査を行っています。

低線量率放射線被ばく影響の機序調査

上記の「実証調査」により、低線量率放射線長期被ばくの影響の種類や大きさの概要が明らかになりつつあることから、次の段階として、低線量率放射線がどのようにして影響を引き起こすのか、そのメカニズムあるいは機序を明らかに必要があります。また、放射線リスク評価の観点からは、高線量率放射線急性被ばくと低線量率放射線長期被ばくがそれぞれの影響を引き起こす機序がどのくらい同じでどのくらい異なっていることを知ることも重要です。このような目的の調査を、「機序調査」と呼んでいます。 機序調査に関しては2つの観点から調査を進めています。

生理学的恒常性維持機能

一つは低線量率放射線が、被ばく個体を構成する個々の細胞の遺伝子を変化させる、あるいは遺伝子の働きを変化させ、これが細胞の性質を変化させ、結果として器官や個体のレベルの疾病などが起こる可能性を探っています。

もう一つは 生物個体の体内の状態を一定に保つ機能(生理学的恒常性維持機能、ホルモンなどさまざまなものを含む)が低線量率放射線被ばくにより変調をきたし、これが疾病発生などにつながっている可能性を探っています。

実際の生体内では両方のことが起こっているのですが、これらを遺伝子などの小さいレベルの解析と、個体などの大きいレベルの解析との両方により低線量率放射線の影響を解明していきます。

生理学的恒常性維持機能

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