再処理工場の安全審査の対象となった放射性物質の中にヨウ素(I)とセシウム(Cs)が含まれています。
これらの放射性物質は排出後に土壌中へ移行し植物に吸収され、農産物や畜産物を通して人間へ移行する経路が想定されています。再処理工場周辺地域では牧草地の面積が大きいため、ヨウ素とセシウムについて土壌から牧草への移行を評価する際に使われる移行係数について調査を行いました。
移行係数とは、土壌中の濃度から植物中の濃度を推定するための係数であり、右図のように計算されます。再処理工場の安全審査で使われた移行係数は時間経過に係わらず一定の値であるとされています。
しかし一般的には、土壌へ沈着した直後が最も植物に取り込まれやすく、土壌中で物理的・化学的な変化をして動きにくくなり、植物に吸収されにくい存在形態になることが予想され、移行係数は沈着してからの時間経過によって変化することが予想されます。
ヨウ素の主要な化学形態にはヨウ化物(I-)とヨウ素酸(IO3-)があります。そこで、ヨウ化物とヨウ素酸、セシウムをそれぞれポット中の土壌に添加し、下図のような時期にそれぞれ2種類の牧草を用いて栽培実験を行い、土壌中の元素濃度及び植物中の元素濃度を測定し移行係数を求めました。
その結果、牧草の種類の違いによる差はほとんど見られず、いずれの場合も添加直後は安全審査の移行係数よりも高い値が見られますが、時間経過とともに移行係数が減少する傾向が見られました。
この結果は、土壌にヨウ素やセシウムを一回だけ加えて行った実験結果ですが、実際に再処理工場が稼働した環境では連続的に土壌に加えられる状態となります。その状態を想定し、本実験で得られた移行係数から求めた牧草中濃度と安全審査で使われた移行係数から求めたものとの比較を行いました。なお、ヨウ素やセシウムは土壌に毎年同じ量で蓄積されるものとして計算し、以下のような内容で計算しました。
その結果、操業20年後において、「時間経過を考慮した移行係数」によって予測される牧草中濃度は安全審査の移行係数から予測される値よりも低くなることがわかりました。この実験で得られた移行係数は、より現実的な線量評価モデルをつくるための有用なデータとなります。
なお、再処理工場の稼動期間は40年間が計画されおり、その半分の20年後の濃度が全稼動期間の平均になっていると考えられるので、再処理工場の安全評価では20年後の濃度を評価しています。それに倣って20年後の濃度を計算しました。
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