排出放射性物質影響調査

過去の主な成果

青森県民の食物含有天然放射性物質からの内部被ばくについて

再処理工場の運転にともない放射性物質が環境中に排出されるため、環境への影響について正確に評価することが求められています。そのためにはあらかじめ、環境中に存在する天然放射性物質の分布やそれらから受ける放射線被ばく線量を正確に把握しておくことが必要不可欠です。

大地や海水にはウラン系列トリウム系列カリウム40といった天然放射性物質が存在しているため、農作物や水産物に取り込まれます。これら農水産物は食物として体内に入り、それらに含まれる放射性物質からの放射線によって内部被ばくすることになります。

そこで、青森県民の食物中に含まれる天然放射性物質の量を調べて平均的な被ばく線量を求めるため、県内2地域において様々な職種の方々を対象に調査を行いました。

青森県民の一般的な食物をサンプリングする

青森県民の食物からの平均被ばく線量を求めるためには、県民の平均的な食物をサンプリングしなくてはなりません。しかし、青森県内でも地域によって、また職種や季節によっても食べるものが異なることが予想されます。

そこで青森市と六ヶ所村の2地域において、それぞれ会社員・自営業者、漁業者、農業者および酪農者の4職種に分類して各成人5名のボランティアの方々にご協力いただき、季節ごとに年4回のサンプリングを行いました。ボランティアの方々には各季節の指定した1日(24時間)に消費した食物と同じものを提供して頂き、各地域・各職種5名分の食物を混合して1食物サンプルとしました。サンプリングは2006年から2010年まで5年間行い、そのうち会社員・自営業者は5年、農業者、漁業者は2年ずつ、酪農者は1年とし、年ごとにボランティアの方を入れ替えためボランティア総数100名、食物サンプルは全80サンプルとなりました。

画像:青森県民の一般的な食物のサンプリング

この食物サンプルに含まれている放射性物質の量を調べるため、前処理や化学分離といった作業を行い測定を行いました。

食物サンプルの放射性物質の量を調べる

画像:食物サンプルの放射性物質量の調査方法

食物には様々な種類の天然放射性物質が含まれていますが、その中でも代表的なものである11種類の放射性物質の含まれている量を測定するため、次のような手順で前処理を行いました。

各地域の各職種5人分の1日の食物をミキサーで均一になるように混ぜ、1食物サンプルとしました。その食物サンプルから3kgを取り分けて凍結乾燥させ、ポロニウム210、鉛210、炭素14の量を測定しました。また、残りの食物サンプルを電気炉で加熱して灰化し、残り8種類の放射性物質の量を測定しました。

測定した放射性物質の中から代表的なものであるポロニウム210、炭素14について、各職種の1日あたりの食物に含まれている放射性物質の量(ベクレル)を示します。この結果は季節や地域については平均した値となります。

画像:食物サンプルの放射性物質量の調査方法
画像:ポロニウム210、炭素14について、各職種の1日あたりの食物に含まれている放射性物質の量(ベクレル)のグラフ

ポロニウム210の結果をみると、漁業者の食物は他の職種の2倍程度の量になっていることがわかります。これは、もともと魚介類にポロニウム210が多く含まれており、漁業者が特に魚介類を多く消費するためだと推測されます。

また、炭素14については職種による大きな違いは見られませんでした。炭素14は再処理工場の稼働時に排出される放射性物質ですが、本格操業前のデータとして有用なものとなります。今回測定された炭素14は天然に存在するものが二酸化炭素の形で光合成により植物である農産物に取り込まれたものと考えられます。

このような結果から全11種類の放射性物質について、青森県内の職種の世帯数比を加味した上で、青森県民の食物に含まれる放射性物質の量の平均を求め、職種別及び青森県民の平均内部被ばく線量を求めました。

放射性物質の量から内部被ばく線量を求める

青森県民及びその職種ごとの食物に含まれる11種類の放射性物質の平均量を求めることができました。この結果から、各放射性物質の線量換算係数を使って内部被ばく線量を計算により求めました。

なお天然放射性物質であるカリウム40は環境中のカリウムの約0.01%を占めています。食物によってカリウム濃度は様々ですが、人体にはカリウムを一定濃度に保つ機能があるため食事内容による影響をあまり受けません。したがって日本の成人で測定された1年あたり0.17ミリシーベルトの値を使用しました。

画像:年間内部被ばく線量のグラフ

青森県内の職種ごとの1年間の内部被ばく線量は、会社員・自営業者、漁業者、農業者および酪農者で、それぞれ0.47、0.86、0.50および0.49ミリシーベルト/年と計算されました。漁業者の内部被ばく線量が他の職種より高い理由は、他の職種より消費量が多い魚介類に含まれるポロニウム210の量が多いからです。

次に青森県内の職種ごとの世帯数で重みづけをして青森県民平均の内部被ばく線量を計算した結果、0.47ミリシーベルト/年となりました。約半分はポロニウム210、3分の1がカリウム40によるものであり、鉛210、炭素14、ラジウム228が続いています。青森県民の線量は世界の平均0.29ミリシーベルト/年より大きい値となりました。その理由として、日本の水産物供給量の平均(161g/人/日)は、世界の平均(56g/人/日)の約3倍とされており、青森県民の食物に含まれるポロニウム210の量が世界平均より多いことが挙げられます。

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