再処理工場の異常発生時には、放射性セシウム等の放射性物質が環境中に放出される可能性が想定されているため、その対策について事前に検討しておくことが求められています。
東京電力福島第一原子力発電所事故では、環境中に放出された放射性セシウムが土壌に沈着、蓄積し、農作物への移行が大きな問題となりました。そのため、放射性セシウムの土壌から作物への移行を低減するためのさまざまな対策が取られました。こうした取り組みから、地域によって中長期的な効果が異なることがわかってきました。こうして得られた知見を踏まえ環境研では、再処理工場の周辺地域の特性に合わせた移行低減化手法の開発調査をイネや牧草を対象として行っています。さらに、環境中における存在形態や挙動について不明な部分が多い放射性ルテニウムについて、再処理工場の周辺地域の土壌を対象として、土壌中の挙動についての基礎的な知見を得るため調査を行っています。
イネを対象とした転流抑制調査
作物の根や葉から取り込まれた放射性物質が作物体内の他の部位に移動することを転流と言います。再処理工場からの異常放出などによって放射性物質濃度が上昇する場合、植物に放射性物質が取り込まれることが予想されます。このとき、私たちが食する作物の可食部への転流を押えることが重要となります。そこで、青森県の主要農産物であるイネを対象に、玄米への放射性セシウムの転流を抑制する手法について、調査を進めています。
牛肉や牛乳の放射性セシウム濃度を低減するためには、牛の餌である牧草への放射性セシウムの移行に影響する要因を明らかにし、土壌から作物への移行低減化対策を適切に行うことが重要です。東京電力福島第一原子力発電所事故後、土壌から作物への放射性セシウム移行低減化対策の中長期的な効果が地域によって異なることがわかってきました。さらに、牧草は一般的に1年間に複数回の収穫を行いますが、牧草中の放射性セシウム濃度が年後半の収穫物である2番草や3番草で増加する現象が観測されました。
そのため、環境研では青森県内の様々な特徴を持つ土壌を対象として、 2番草や3番草に対しても有効な土壌から牧草への放射性セシウム移行低減化対策を検討しています。青森県内の牧草地は東京電力福島第一原子力発電所事故による放射性セシウムの汚染が少なかったため、環境研では実験室内で放射性セシウムを土壌に添加することで、事故時を模擬した栽培実験を行っています。
東京電力福島第一原子力発電所事故での周辺牧草地では、牧草への放射性セシウムの移行を低減するための対策がされましたが、その長期的な効果は地域によって異なります。
そこで、これまでに青森県内土壌で移行低減化効果が見られた手法の長期的な効果を明らかにすることを目的として、研究所構内の試験圃場において、土壌特性の変化が牧草のセシウム濃度に与える影響について、複数年にわたって調査を行っています。
再処理施設の設計基準事故において、放出が想定されている放射性物質の一つに放射性ルテニウム(ルテニウム106)があります。2017年秋にはヨーロッパの広範囲の大気から発生源不明の放射性ルテニウムが検出され、社会的関心を集めました。
ルテニウムは環境中においては様々な化学形態を取り得ることから、環境中における挙動は複雑であることが予想されます。しかしながら、陸域環境における放射性ルテニウムの挙動に関する知見は少ないのが実情です。そこで、環境研では青森県内の様々な特徴を持つ土壌を対象として、ルテニウムの存在形態や地表に沈着した後の土壌中での挙動に関する基礎的な知見を取得するための調査を行っています。
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