排出放射性物質影響調査

過去の主な成果

作物の葉っぱ表面にのったセシウムはどうなるのか?

再処理工場の運転にともない放射性物質が環境中に排出されるため、その動きを正確に予測することが求められています。再処理工場の建設にあたり実施された安全審査の対象となった放射性物質の一つにセシウム137(137Cs)があります。また、セシウムは2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故で環境中に放出され、環境汚染が問題となりました。このように原子力施設の周囲への影響を考慮する上で非常に重要な放射性物質です。

大気中に放出されたセシウムは、様々な環境・気象条件によって多種多様な経路を通り環境中を移行することになります。その想定される移行経路の中で、農作物への移行は最終的にそのセシウムが人間に到達する可能性が高く、非常に注目されています。ここでは、大気中に放出されたセシウムが作物にどのように移行するのか、について調査した結果を紹介します。

セシウムの作物への移行

画像:セシウムの作物への移行

大気中に放出された放射性物質は、放出条件や気象条件にもよりますが、風にのって広がっていき地面へと降下します。作物に降下する場合は、葉っぱの上に直接、あるいはその周囲に降下します。作物の葉の表面(葉面)にのったセシウムは、葉面から吸収され(葉面吸収)、他の部位へ移動(転流)したり、一部は、風や雨等により葉面から取り除かれます。また、作物の種類によっては周囲に降下したものを吸収することも考えられます。このように、気象条件や作物の種類によってセシウムの移行は大きく異なることが予想されます。

排出放射性物質影響調査では、六ヶ所村にある再処理工場が操業を開始した後、排出される放射性物質が作物にどのように入るかについて調べており、作物の葉っぱに降下して沈着したセシウムに注目した調査も行っています。そこで、六ヶ所村において作物として最も多く栽培されているダイコンを対象に、葉っぱに沈着したセシウムがその後の気象条件でどのように動くのかを調べる実験を行いました。

画像:セシウムの作物への移行

セシウムを葉面に沈着させ動きを調べる方法

六ヶ所村では作物としてダイコンが最も多く栽培されており、同じアブラナ科のハツカダイコンを使って実験を行いました。ハツカダイコンの葉面にセシウムをのせるため、最初に塩化ナトリウムと塩化セシウムを混合して水に溶かして水溶液を作りました。次に下写真のエアロゾル発生装置を用いて、その水溶液を小さな水滴(霧状)にした後、含まれている水分を乾燥させてセシウムを含む固体エアロゾル(空気中に浮遊している微小な液体粒子や固体粒子)を作りました。発生させたエアロゾルをハツカダイコンを置いた実験槽内で噴霧し、葉面にセシウムの微小粒子を沈着させました。

なお、本実験で使用したセシウムは放射性ではなく安定なセシウムを使用しています。

画像:セシウムを葉面に沈着させ動きの調査

実際の自然環境では、葉っぱに沈着したセシウムの一部が雨や風等の気象条件によって取り除かれます。そこで雨の強さや降る時間の長さと葉っぱに沈着したセシウムが植物に残る割合の関係について調べるため、人工降雨装置を使用して実験を行いました。

また、セシウムのハツカダイコン葉面からの吸収を調べるため、採取したハツカダイコンの葉面を葉面洗浄液(界面活性剤と硝酸を混合した溶液)で洗った後に葉と根に分け、それぞれ洗浄液、葉、根に含まれるセシウムの量を測定しました。

画像:降雨装置と実験中のハツカダイコン

葉面にのったセシウムの動きを調べる

雨がない状態でのセシウムの動き

環境研の大型人工気象施設の中で雨のない状態を再現し、葉面にのったセシウムがハツカダイコン内で葉や根にどの程度動くか調べました。

葉面にのったセシウムは、のった後数日間は速く葉面から吸収され他の部位に転流しますが、その後はゆるかやに吸収されていることがわかります。実験開始後2週間で、葉面に沈着したセシウムのうち約38%が吸収され、そのうち約15%は根まで転流することがわかりました。

雨がない状態でのセシウムの動き
画像:雨を降らせた時のセシウムの動き

次に、ハツカダイコン葉面にセシウムをのせた後に人工降雨装置で雨を降らせ、雨の強さ及び降る時間の長さと葉っぱにのったセシウムが植物に残る割合の関係について調べました。その結果、雨が降る強さが強いほど、降る時間が長いほど作物に残る割合が小さくなりました。

また、雨の降り始めは作物に残る割合が急激に小さくなり、その後の変化は緩やかになっていることがわかります。このことから、雨の降り始めに葉面から除去されるセシウムとその後ゆっくり除去されるセシウムとが存在していることがわかりました。

これらセシウムの動きに関するグラフから計算式を作り、葉っぱにのったセシウムが降雨によりどのように動くのか、予測するモデルを作成しました。

画像:雨を降らせた時のセシウムの動き

葉面にのったセシウムの動きを計算する方法

画像:ハツカダイコンのコンパートメントモデル

最初に、ハツカダイコン内のセシウムの動きに関する計算式を作るため、コンパートメントモデルを作成しました。セシウムが、ハツカダイコン内の各部位にどのように動くのかを表す計算式を作る設計図となるものです。葉面から葉への吸収では、実験で「葉面にのった後数日間は速く葉面から吸収され他の部位に転流しますが、その後はゆるかやに吸収されている」ことがわかっているので、葉面1、葉面2という2つの区画に分けてモデルを作り、計算式に反映してあります。

次に、雨を降らせた時のセシウムの動きの実験結果から、「雨による葉面からの除去に関する計算式」を作りました。これらの計算式を用いて、六ヶ所村の実際の降雨データを計算式に入れて、作物に残るセシウムの割合がどのように時間変化するかを計算しました。

画像:ハツカダイコンのコンパートメントモデル
画像:葉面にのったセシウムの動きの計算方法

ある日の正午を起点として、20日間の期間で計算をしました。雨が降り始めるまでは葉面上のセシウムは葉には吸収されますが、葉から取り除かれないので作物に残る割合は100%のままです(緑の線)。5日目過ぎに降水があると葉面上のセシウムが洗い流され減少する事がわかります。この計算で20日目の作物に残る割合を求めます。次に、この20日目の値まで指数関数的に減少したと仮定して計算し、作物に残る割合が50%になった経過時間を「半減期」としました。

この「半減期」を、葉っぱにのったセシウムがその後の気象条件でどのように動くのかを表す指標とし、平成18年から平成22年の5年間の六ヶ所村の気象実測データを元にして計算を行いました。

画像:葉面にのったセシウムの動きの計算方法

六ヶ所村の実際の気象データを使って「半減期」を求める

画像:六ヶ所村で測定された降雨強度及び降雨頻度を使って820回の計算を行い、半減期を求める計算を行いました

平成18年から平成22年の5年間、作物が栽培される5月1日から10月11日の各日の12時を起点として、実際に六ヶ所村で測定された降雨強度及び降雨頻度を使って820回の計算を行い、半減期を求める計算を行いました。

画像:六ヶ所村で測定された降雨強度及び降雨頻度を使って820回の計算を行い、半減期を求める計算を行いました
画像:半減期を求める計算の詳細

半減期は最短で0.3日、最長で15.1日と、気象条件によって大きく異なることがわかりました。また、求められた820個の半減期を小さい値から順に並べると、中央に位置する値(中央値)は10.3日でした。この値は、再処理工場が建設される際に安全審査で使われた14日より短いことがわかりました。

このように、セシウムの作物への移行は、気象条件から大きな影響を受けることがわかります。また、作物の種類や例えばヨウ素といった放射性物質の違いによっても異なることが予想され、再処理工場周辺で栽培される他の作物についても調査を進めています。

画像:半減期を求める計算の詳細

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