排出放射性物質影響調査

過去の主な成果

大気中に排出された放射性物質の動きを予測する

再処理工場の運転にともない、気体状と液体状の放射性物質が廃棄物として生じます。そのうちの一部に取り除くことが困難なものがあり、最終的に気体状のものは大気へ排出、液体状のものは海洋へ排出されます。大気に排出される放射性物質としてクリプトン8585Kr)や炭素1414C)などが挙げられますが、周辺住民の科学的に正確な被ばく線量を予測するため、それらの動きを正確に予測することが求められています。

これまで、再処理工場から大気排出された放射性物質の動きを予測するため、大気拡散モデルを構築しシミュレーション計算ができるプログラムの開発を行ってきました。ここでは、2006年3月から実際に使用済み燃料を用いて行われたアクティブ試験(再処理工場の完成に向けた試運転)において大気排出があった際に測定した値とシミュレーションで計算した値について、比較・検証を行った結果を示します。

大気拡散モデル

画像:大気拡散モデルのイメージ

再処理工場周辺での様々な放射性物質の動きとそれらによる放射線被ばくを予測・評価するためのコンピュータシミュレーションプログラム(総合的環境移行・線量評価モデル)を作成しています。このモデルはいくつかのサブモデルで構成されていますが、大気拡散モデルはその1つです。大気拡散モデルは、再処理工場から大気中に排出された放射性物質が大気中でどのように移流・拡散するかを予測するプログラムです。

クリプトン85は、大気排出される放射性物質の中では大半を占めること、また被ばく線量への寄与が最大であること、及び希ガスであるため体内に取り込まれず外部被ばくのみを与える放射性物質であり計算と測定が容易であることから、クリプトン85について計算を行いました。

画像:大気拡散モデルのイメージ

環境ガンマ線を測定する

再処理工場では、2006年3月から実際に使用済み燃料を使用して再処理を行うアクティブ試験を開始しました。その際に発生する放射性廃棄物であるクリプトン85は、他の物質との反応や相互作用をしにくい希ガスであるため、主排気筒から大気中に排出されることになります。これまでに構築した大気拡散モデルの検証や精度向上を図るためには、実際に大気に排出されたクリプトン85の環境中での動きを実測する必要があり、クリプトン85から放出されるガンマ線を捉えることができる装置が必要となります。

環境科学技術研究所では、環境ガンマ線連続モニタを設置し、常時、環境ガンマ線を測定しています。また、このモニタは再処理工場主排気筒から尾駮(おぶち)沼をはさんで東に約2.6kmの位置にあり、排出された放射性物質を測定することが可能です。

画像:環境ガンマ線の測定イメージ

下図は環境ガンマ線連続モニタで測定した結果です。測定した5日間の中で環境ガンマ線に変動があることがわかります。また、同時に測定した降水量の結果を示しますが、降水があった際に環境ガンマ線が増えていることがわかります。これは、大気中に存在している天然の放射性物質が雨により地表に降下して起こる現象です。したがって、降水時には排出されたクリプトン85によるガンマ線線量率上昇分だけを分けて評価することができません。

そこで、クリプトン85から出る特有のエネルギーのガンマ線を判別して測定する必要があります。下図右のようにクリプトン85から出るガンマ線をエネルギー別に測定し、このピークの大きさ(赤い点)からクリプトン85に起因する線量率の増加分を求めました。

画像:環境ガンマ線連続モニタによる測定結果

大気拡散モデルによる計算値と実測値を比較・検証する

下図は実際に再処理工場からクリプトン85が排出された際の、再処理工場の主排気筒及び環境科学技術研究所(環境研)周辺の線量率空間分布の計算結果(下図の上部分)と、環境研の位置での線量率の時間変化の計算結果と実測値(下図の右下部分)を示したものです。大気拡散モデルでは、このように空間分布の時間変化を表すことができ、また任意の点での線量率変化を計算することができます。

計算結果から、再処理工場から排出されたクリプトン85は、この時点の気象条件では東側に流れて環境研を通過して移動したことがわかります。また、環境研の位置での線量率計算値と実測値との比較からも計算値は概ね合致していると考えられます。

画像:大気拡散モデルによる計算値と実測値の比較

更に環境研の位置での、別の月の線量率の計算値と実測値を比較しました。8:00から10:00にかけてのピークは概ね正確に計算できていますが、1:00から5:00にかけて、また10:00過ぎのピークは実測値と異なることがわかります。この異なる原因として、使用している気象データの精度や細かさなどが考えられますが、更に予測精度を向上させるための改良や開発を行っています。

画像:別の月の線量率の計算値と実測値の比較

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