排出放射性物質影響調査

過去の主な成果

青森県民のラドンからの被ばくについて

再処理工場の運転にともない放射性物質が環境中に排出されるため、環境への影響について正確に評価することが求められています。そのためにはあらかじめ、環境中に存在する天然放射性物質の分布やそれらから受ける被ばく線量を正確に把握しておくことが必要不可欠です。

大地や海水にはウラン系列トリウム系列の天然放射性物質が存在しており、その変化(壊変系列)の途中にあるラドンは気体状の放射性物質です。その空気中のラドン濃度は岩や土の種類によって含まれている放射性物質の濃度が異なることや、屋外や屋内、建物の材質や構造の違いといった生活条件によっても異なります。

そこで、青森県内の様々な地点や生活条件での空気中ラドン濃度の調査を行い、青森県民がラドンから受ける平均被ばく線量を求めました。

青森県民が生活・行動する場所の一般的なラドン濃度を調べる

画像:ラドンによる内部被ばくのイメージ

ラドンは気体状の放射性物質であり、主に岩や土に含まれている天然放射性物質が変化して発生し、空気中に出てきます。ラドンは呼吸によって体内に取り込まれ、発生する放射線によって内部被ばくをすることになります。ラドンによる内部被ばくは、世界平均では自然放射線からの年間被ばく線量の半分以上を占めると言われていますが、生活・行動様式の違いや地域によっても被ばく線量が異なることがわかっています。

そこで青森県民の被ばく線量を調べるため、青森県内の一般家屋環境を対象に屋内109地点、屋外15地点のラドン濃度測定を行いました。また、勤労者や学生は職場や学校で1日の約3分の1の時間を過ごしていることから、職場環境を対象に屋内107地点、屋外116地点のラドン濃度測定を行いました。更に特殊環境として、ラドンの供給源である土の上に直接ガラスやビニールで覆いをする園芸用大型ハウス、パイプハウスを対象に29地点の測定も行いました。

画像:ラドンによる内部被ばくのイメージ
画像:ラドン・トロン弁別測定器とアルファガード(電離箱)

ラドン濃度の測定器は、年間を通じた平均的なラドン濃度及び1日の中でのラドン濃度変化を調べるため、それぞれラドン・トロン弁別測定器、通気型電離箱(アルファガード)を用いました。

ラドン・トロン弁別測定器は各地点に約1年間(約3ヶ月ごと4期に分けて測定)設置して測定を行い、またアルファガードは、代表的な地点、時期に連続して1週間設置し1時間ごとに測定を行いました。

様々な環境下でのラドン年間平均濃度の測定結果

青森県民が通常の生活においてラドンから受ける被ばく線量を求めるために、一般家屋環境、屋内職場環境、屋外職場環境、ビニールハウス内の空気中ラドン年間平均濃度を測定した結果を以下に示します。横軸に空気中ラドン濃度(ベクレル/m3)、縦軸には各濃度範囲での測定地点数を示します。

画像:1㎥メートル当たりのラドン濃度のグラフ、1.一般家屋環境:幾何平均値14ベクレル/立方メートル 2.奥内職場環境:幾何平均値20ベクレル/立方メートル 3.屋外職場環境:幾何平均値13ベクレル/立方メートル 4.ビニールハウス:幾何平均値13ベクレル/立方メートル

各環境での幾何平均値を求めると、一般家屋環境では14 Bq/m3、屋内職場環境では20 Bq/m3、屋外職場環境では4.4Bq/m3、ビニールハウスで13 Bq/m3となりました。

一般家屋環境に比べて屋内職場環境ではラドン濃度が高く分布し、屋外職場環境では低く分布しています。また、一般家屋環境とビニールハウスでは幾何平均値はほぼ同じですが、ビニールハウスではラドン濃度が広く分布している傾向が見られます。

ここには示していませんが、季節変化では屋内、屋外ともに、ラドン濃度は夏に低く、秋から冬にかけて高くなる傾向が見られ、木造の一般家屋では若干ですが家屋の築後年数が増加するにつれてラドン濃度が低くなる傾向が見られました。また、屋内職場環境におけるラドン濃度を構造別(鉄筋コンクリート、木造)やエアコンの有無で集計すると、エアコンの無い鉄筋コンクリート構造でラドン濃度が高い傾向が見られました。

これらの事から、換気による屋内ラドン濃度の変化が大きいことが予想されます。そこでラドン濃度が1日の中でどのように変化するのか、屋内職場環境を中心に調査を行いました。

ラドン濃度の日変化の測定結果

屋内職場環境では、平日と休日で人の出入りやエアコン等の稼働の有無による換気条件の違いがあることが予想されます。特に職場環境では鉄筋コンクリート構造が多く密閉性が高いため、換気条件の違いによるラドン濃度の差は大きいと考えられます。そこで、屋内職場環境でのラドン濃度の日変化について測定を行いました。

屋内職場環境を対象に測定した中から代表的なものについて、空気中ラドン濃度の日変化を1時間ごと1週間にわたって測定した結果を以下に示します。

画像:ラドン濃度の日変化の測定結果のグラフ

この測定結果から平日の日中の時間帯には空気中ラドン濃度が低く、夜間は高い傾向であること、休日である土曜日と日曜日は日中でもラドン濃度が高いままであることがわかります。これらのことから、人がいる時間帯では人の出入りや換気等により空気中ラドン濃度が低い屋外との換気が行われ、屋内のラドン濃度が低くなることが推測されます。この事は、ラドンからの被ばく線量を求める際、屋内職場環境の年間平均濃度をそのまま用いて計算してしまうと正確な評価ができないということを示唆しています。

そこで屋内職場環境を対象に日変化の測定を数多く行い、職場に実際にいる労働時間中の実質的なラドン濃度を求め、その値を11 Bq/m3としました。

青森県民のラドンによる被ばく線量を計算する

各環境ごとの年平均の空気中ラドン濃度の測定や日変化の測定の結果から、青森県民の平均的なによる被ばく線量を求めるために計算を行いました。計算に使用した値は以下の表の通りです。

ラドンによる内部被ばくは、実際にはラドンがポロニウムや鉛、ビスマスといった壊変系列を構成する放射性物質に変化する(ウラン系列トリウム系列)際に発生する一連の放射線によるものがほとんどで、ラドンから変化したこれらの放射性物質が空気中のほこり等に付着し、呼吸によって人体内に取り込まれ気管支や肺に沈着することで内部被ばくが起こります。

本来であれば、空気中のほこりに付着したポロニウムや鉛、ビスマスの量を直接測定することが理想ですが技術的に難しいため、測定が比較的簡単なラドン濃度の測定結果に平衡係数をかけて計算する方法が一般に採用されています。この平衡係数は屋内と屋外といった環境条件により異なり、日本国内で評価された値(一般家屋環境)や本調査でラドン及びポロニウムや鉛、ビスマスといった一連の放射性物質濃度を測定した結果(職場環境)を用いました。

これらを用いて計算すると、青森県民が1年間に平均でラドンから受ける被ばく線量は0.39ミリシーベルトであるという結果が得られました。日本平均は1年に0.49ミリシーベルトとされており、やや低いことがわかりました。

画像:青森県民のラドンによる年間被ばく線量の計算

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