排出放射性物質影響調査

過去の主な成果

集水域に降下した放射性セシウムの川への流れ出し

再処理工場の運転にともない放射性物質が環境中に排出されるため、その動きを正確に予測することが求められています。これまで、六ヶ所村にある尾駮沼や鷹架沼を対象にそれらにつながる川や集水域に降下した放射性物質がどのように流れだし移動するのかを予測する集水域モデルを構築してきました。

2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故では放射性物質が環境中に放出され、特に放射性セシウムによる環境汚染が深刻な問題となりました。大気中に放出された放射性セシウムは地面に降下し、様々な環境・気象条件により環境中を移動することになります。

ここでは、これまで六ヶ所村で集水域モデルを構築してきた知見を活用し、福島県の2河川を対象にその集水域に降下した放射性セシウムの河川を通じた環境中での移動について調査した結果を紹介します。

集水域から河川への放射性セシウムの動き

2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故により放出された放射性セシウムの一部は、広範囲にわたって土壌や森林植物に降下し沈着しました。沈着した放射性セシウムは下図のような経路で移動することが考えられますが、特に土壌に強く吸着する性質があることがわかっています(土壌から農作物への放射性セシウムの移行について)。従って主な移動経路として、その土壌粒子が降雨によって表面流出水とともに河川へ移動し、上流から下流、最終的に湖沼や海へと移動して湖底・海底に堆積すると考えられます。

画像:集水域から河川への放射性セシウムの動きのイメージ

ここでは、東京電力福島第一原子力発電所から北西約30kmに位置する飯舘村の比曽川、割木川の2河川を対象に、河川水中で放射性セシウムがどのような状態で存在し移動しているのか、集水域に降下した放射性セシウムはどの程度流れ出しているのか、調査を行った結果について紹介します。

比曽川と割木川の測定場所と方法

測定を行った飯舘村の比曽川と割木川は福島第一原子力発電所から北西約30kmに位置し、新田川水系の上流部にあたり、河川水は太平洋へ注ぎ込みます。文部科学省の報告では、平成23年8月2日時点での対象河川流域の放射性セシウムの沈着量は1m2あたり約1000~3000キロベクレルとされています。

調査地点から上流にかけての流域面積は比曽川が約4.5km2、割木川が約3.2km2であり、比曽川の上流は水田に囲まれており(測定時点では休耕)、割木川の上流は山地型森林に囲まれた地域となっています。

画像:放射線量マップ

現地調査では、河川水を採水するとともに河川の流速や水位、水質を計測しました。水位に関しては計測機器を設置し、水位データを連続して計測しました。また、河川水中での放射性セシウムの存在状態を調べるため、採水した試料を実験室に持ち帰り測定を行いました。測定方法は以下の通りです。

河川水を孔径0.45μmのフィルターを用いてろ過しました。この作業によって、河川水に含まれている砂や粘土鉱物などの無機物や植物の腐食物質などの有機物を除去します。このろ過水と河川水の原水を、それぞれイオン交換樹脂を充填したカラムに通してセシウムを回収します。その樹脂を乾燥させた後に専用の測定用容器に密封してゲルマニウム半導体検出器を用いて測定し、それぞれの放射性セシウムの濃度を求めます。河川水中に懸濁状態(水に溶けていない状態)で存在する放射性セシウム濃度は、原水中の放射性セシウム濃度からろ過水中の放射性セシウム濃度を引いて算出しました。

画像:現地調査の様子と放射性セシウム測定の様子

調査を行った時期の雨量や河川水の状態

河川の調査は平成23年の7月から11月の時期に4回行いました。下に示した図が飯舘村のアメダスによる降水量の測定結果を示したものです。調査を行った4回のうち2回は降水が無かった平水時で b: 8月18日と d: 11月21~21日、残りの2回が降水があった a: 7月20~22日、そして台風15号の大雨による大量の出水があった c: 9月20~22日となります。写真に示したように、台風時の接近による大雨では川の水量が増えて川が濁り、土壌流出が起こっていることがわかります。

画像:調査を行った時期の雨量や河川水の状態

実際に比曽川と割木川それぞれの水位と懸濁物質濃度の測定結果を示します。懸濁物質濃度は、河川水を孔径0.45μmのフィルターに通して取り除いた砂や粘土鉱物などの無機物や植物の腐食物質などの有機物の河川水1リットルあたりに含まれる重量(mg)を表したものです。この測定結果から、7月と9月の降水があった時には水位が高くなり懸濁物質濃度が高くなっている、つまり土壌などを含んだ濁った水になっていることがわかります。

これらの基本的なデータを踏まえ、河川水中の放射性セシウムの濃度や存在状態について更に詳しく調べました。

画像:比曽川と割木川の水位と懸濁物質濃度の測定結果

河川水中の放射性セシウム濃度と存在状態

河川水中に含まれる放射性セシウムの測定結果を以下に示します。最大値は9月の割木川で約35ベクレル/L、最小値は11月の割木川で約0.5ベクレル/Lと大きく差があることがわかりました。また、平水時に比べて降水時に放射性セシウムの濃度が高い傾向が見られました。降水時に放射性セシウム濃度が高い理由として、土壌流出などによる懸濁物質の増加が考えられます。そこで河川水中の放射性セシウムの状態について更に測定を行いました。

画像:河川水中の放射性セシウム濃度と存在状態

以下の円グラフの平水時は8月及び11月の測定結果の平均値、降水時は7月及び9月の測定結果の平均値を示したものです。平水時では懸濁状態で存在している割合が両河川ともに6割程度でしたが、降水時では比曽川が約8割、割木川が約9割と高い値になっています。平水時と降水時では放射性セシウムの形態別存在割合が異なることがわかります。

次に、懸濁物質1グラムあたりに含まれる放射性セシウムの濃度も求めました。その結果、平水時でも降水時でも比曽川では約280ベクレル/g、割木川では約330ベクレル/gと大きな違いが認められず、同じ濃度の懸濁物質が川に流出していることがわかります。従って、降水時に河川水中の放射性セシウムの濃度が高くなる原因は、土壌などの懸濁物質が平水時と比べて多く川に流出することが原因であると言えます。

画像:放射性セシウムの形態別素材割合

なお、河川水中に溶存態(水に溶けている状態)で存在する放射性セシウム濃度は、比曽川では0.4~2.8ベクレル/L、割木川では0.2~1.3ベクレル/Lという測定結果が得られました。

次に、比曽川、割木川のそれぞれの上流集水域に降下した放射性セシウムがどの程度河川へ移動し流出したのか、計算をして求めることにしました。

集水域から河川への放射性セシウムの流れだし

これまでの測定結果を元に、東京電力福島第一原子力発電所事故発生直後からその年内(平成23年)の間に、比曽川、割木川について、その集水域に降下した放射性セシウムがどの程度流れ出したのか計算しました。計算をするためには、「その期間中に川に流れ出した放射性セシウムの総量」と「その集水域に降下した放射性セシウムの総量」が必要となります。

川に流れ出した総量は以下の方法で推測しました。これまでの測定結果を使い、気象庁で観測している降水量と水位の関係、水位と河川流量の関係、河川流量と放射性セシウム流出量の関係を下図のように求め、関係式を作りました。これら関係式を使い、平成23年3月15日から平成23年12月31日までの気象庁のアメダスの降雨量データを利用して計算を行い、この期間中の放射性セシウムの川への総流出量を求めました。

平成23年3月15日から平成23年12月31日までの方正生セシウムの総流出量

次に、比曽川、割木川の測定した地点よりも上流の集水域に降下した放射性セシウムの総量の推定を下図の通り行いました。放射性セシウムの降下量は文部科学省からの報告データを元にその中央値である1m2あたり2000キロベクレルとして、測定した地点よりも上流集水域の流域面積から総降下量を求めました。

これらをまとめると、比曽川、割木川の集水域に降下した放射性セシウムが平成23年3月15日から12月31日までにそれぞれの河川に流れ出した割合は0.5%、0.3%となりました。

この結果から、河川を通じて放射性セシウムが流出してはいますが、大部分は集水域に沈着した状態で留まっていることが明らかとなりました。

画像:比曽川と割木川の方正生セシウムの流出率

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