これまで重金属や放射性物質、石油関連物質などによる土壌汚染が発生しています。このような土壌汚染に対する対処法としては、汚染土壌そのものを取り除く方法と、微生物や植物を使って浄化・除去する方法があります。微生物を使う方法は主にその体内で起こる反応を利用して有害有機物を分解して無害化するものであり、植物を使う方法は生長する際に土壌から物質を吸収する能力を利用して有害物質を土壌から取り除くものです。
大気中核実験や原子力施設で発生した事故で放出された放射性物質の代表的な元素として、セシウム(Cs)やストロンチウム(Sr)、ヨウ素(I)があります。本調査では、これらの物質をより効率的に土壌から取り除くことができ、且つ青森県内での栽培に適した植物の探索を行いました。
植物を使った環境浄化は、安価であり周辺環境への影響が大変低いという長所がありますが、浄化に時間がかかる、植物の根の伸びる範囲に限られる等の短所もあります。また、汚染土壌地域の気候や土壌に適した植物を選定する必要があります。
この調査では、青森県内で栽培可能であり、セシウム、ストロンチウム及びヨウ素を土壌中からより多く吸収できる植物を、栽培植物、野生植物のそれぞれの中から選定する作業を行いました。
これまでに行われた研究での報告などを参考とし、青森県あるいはその近隣で栽培あるいは自生しているものを中心に77種類の栽培植物、50種類の野生植物を環境浄化用候補植物として選定し、実際に栽培して単位面積当たりの収奪量を調べました。
この単位面積当たりの収奪量とは、1㎡あたりに土壌中から除去される各元素の重量のことをいいます。従って、植物が各元素をより多く吸収する性質(植物中濃度が高くなる)を持つことも重要ですが、密集しても育つ、あるいは植物体自身が大きく育つ、といった点も重要となります。
実験では、各植物を1平方メートルに隙間無く植え、一般的に行われている栽培条件で栽培しました。セシウムやストロンチウム、ヨウ素などの元素は添加せず、土壌に元々含まれているものを利用しました。また植物は開花後、結実し、葉茎の重量が減少する前に採取し、測定を行いました。
青森県及びその近隣で栽培が可能な77種類の植物について、セシウム、ストロンチウム、ヨウ素の土壌1平方メートルあたりの収奪量を測定した結果の中から、収奪量が多かった代表的なものをここに示します。
セシウムについては、アマランサスが最もセシウムを蓄積する植物として過去に報告されていましたが、本調査では同様の結果が得られました。また、新たにスベリヒユ科のタチスベリヒユがセシウムを多く収奪すること、ヒマワリはセシウム濃度は高くありませんでしたが植物体が大きく育つため収奪量が多くなることが明らかになりました。
ストロンチウムについてはセシウムと同様にアマランサス、ヒマワリで収奪量が多いという結果が得られましたが、一方でタチスベリヒユについてはあまり多くありませんでした。
ヨウ素は、これまでほとんど報告がありませんでしたが、ヒマワリが収奪量が多く、アマランサスも他の栽培植物よりも多い傾向が見られています。ここでは示していませんが、シソ科のタイムでも収奪量が比較的多いという結果が得られており、栽培植物種でのヨウ素収奪量の差異が明らかになりました。
これらの結果から、3元素とも収奪量が多かったキク科のヒマワリ(左)、ヒユ科のアマランサス(中)、セシウムでの収奪量が多かったスベリヒユ科のタチスベリヒユ(右)が栽培植物の中で環境浄化植物として適していることがわかりました。
青森県及びその近隣の50種類の野生植物について、セシウム、ストロンチウム、ヨウ素の土壌1平方メートルあたりの収奪量を測定した結果の中から、収奪量が多かった代表的なものをここに示します。なお、栽培植物で各元素とも収奪量が多かったヒユ科アマランサスを比較のために示しています
セシウムについては、アマランサスが最もセシウムを蓄積する植物として過去に報告されていましたが、同じヒユ科の野生種であるヒモゲイトウ、アオゲイトウの方が栽培種に比べて2倍以上の収奪量があることが明らかになりました。また、タデ科のオオイヌタデが収奪量が多いことが新たにわかりました。
ストロンチウムについてもアマランサスが最も蓄積する植物として過去に報告されていましたが、オオイヌタデがアマランサスよりも収奪量が多いことが明らかになりました。
ヨウ素は、栽培植物と同様にこれまでほとんど報告がありませんでしたが、オオイヌタデがより多く収奪することが明らかになりました。
これらの結果から、3元素とも収奪量が多かったタデ科のオオイヌタデ(左)、セシウムの収奪量が多かったヒユ科のヒモゲイトウ(中)、アオゲイトウ(右)が野生植物の中で環境浄化植物として適していることがわかりました。
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