生物には、体内の状態を一定に保つための機能(生理学的恒常性維持機能)が備わっており、これはさまざまな組織の間のネットワーク(内分泌系、神経系などを含む)により構成されています。放射線の全身被ばくによる影響は、以前は、その組織に放射線が当たった直接の影響と考えられていました。しかし現在では、放射線に特に弱い組織が最初に影響を受け、その影響が恒常性維持のためのネットワークを伝わって、他の組織に間接的に影響を与えている場合があることが明らかになってきています。
そこで、低線量率放射線長期被ばくが影響を引き起こす機序(しくみ)を組織のような細胞よりも大きなレベルで明らかにすることを目的とするこの解析項目においては、特に、このような恒常性維持のためのネットワークを介して低線量率放射線被ばくの影響が体内で伝播・増幅されていく仕組みに注目して調査を進めています。
放射線を照射されたメスマウスにおいて、卵巣がまず障害を受け、これが内分泌系(ホルモンなど)を介して、肥満、脂肪組織増加、さらにはさまざまな臓器における発がんなどを引き起こす仕組みを調べています。
低線量率放射線を照射されたマウスでは、神経系にも影響がおよび、日周性(一日の行動パターンなど)が変化している可能性を調べています。
血管の内部表面にある血管内皮細胞は放射線への感受性が高いことが知られています。この細胞が分泌するさまざまな物質が、近くあるいは遠くの細胞、組織、器官に放射線の影響を伝えている可能性を調べています。
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